外車ちゃん

昔書いたやつもあるよ!

夜空はいつでも最高密度の青色だ。

かつて恋をした人は、東京にうまく馴染めていない人だった。
それでもしっかりお洒落な街に住んで週末は一緒に食べ歩きをした。
東京郊外も知った今となっては"東京に馴染めていないフリ"をしていただけかもしれない。
私も同じようなものだった。
 
生まれた時からどこかが普通の人とは違った私は、時々「お前は頭がおかしい」となじられた。
そんなこともう慣れっこだった。
そんな私に彼は言った「おかしいのは君だけじゃない、東京にいる人たちみんな狂ってるんだ。それに気づいていないだけなんだよ」と。
自分の居場所をやっと見つけた気がした。

 

東日本大震災が発生してから彼の"東京に馴染めなさ"はますますひどくなって、週末はお洒落な街に二人で引きこもった。
そうして「いつか僕の故郷の関西で一緒に暮らそう」と約束した。
 
YouTubeで一緒に映像を観た。
それは彼の生まれ育った町の道路を延々と映している映像だった。時々、海が見えた。

 

私の暮らす部屋と彼の部屋は同じ街にあったので、よく彼の作ったご飯を食べた。
喧嘩をした日の翌日には電話をかけてきて「材料を買い過ぎて作りすぎちゃいそうだなあ」と誘ってくれた。

 

自転車で3分ほどだったろうか。彼の部屋に到着するまでの時間が待ち遠しくて仕方がなくて時間の感覚が分からない。
首都高速道路をはさんで位置していたので、この道路が崩れ落ちてしまったら会えなくなってしまうかもしれないと、いつも不安だった。


つらいこともあったけれど、彼と一緒にいる為だったら何でもするという気持ちで生きていた。

 

しかし、彼は私に恋などしていなかった。
いつも女性がそばにいないと生きていけない類の弱い男ではなかったから。

私にそれなりの愛情は持っていたと思う。でも、それが「恋」でないことが悲しかった。
私の代わりはいないけれど、私がいなくてもよい、そういった具合。
そのことが時々悲しくなって、よくある下らない理由で、ある日、本気で「別れたい」と話したら、私の部屋をすぐに訪れて「絶対に別れないよ、君には僕が必要だから」と言った。
私は「何よ、それ」と怒ったけれど、自分の、人を選ぶ能力は間違っていないような気がした。

 


けれど私たちは別れた。

 

 

東京の夜空は、いつでも最高密度の青色だ。

一人になった私はもう東京を好きになるしかなくなって、代替可能な存在としてしか愛されなくなって、いずれは誰にも目にとめてもらえない塵になってしまうのだろうと時々怖ろしくなるけれど、売ってはいけない"何か"に魂を売ることだけは、まだしていないつもりだ。