外車ちゃん

昔書いたやつもあるよ!

正しい街

私はいちおう女だから歳をとるのが怖ろしくてたまらなくって「20代のうちに死んでしまえたら良いなあ」なんてことを10代の頃から何度も何度も思ったし、今でもやっぱり歳を取るのは怖い。


歳を取ることが怖ろしいのではなくって不可抗力で自分の価値が失われてしまうことが怖ろしいのだ。自分にとって価値の無い人間にどう思われたって構わないはずなのに、自分にとって価値の無い人間にこそ「お前になんてもう価値は無い」と言われたくなかったのだ、絶対に。


心の底ではめらめらと何かに敵意を燃やしているくせに「年齢を重ねたからこその魅力」だのなんだのといちいち布教しなくてはならないのが面倒くさいので、私は自らへらへらと自虐する。そうしている方が楽だから。最もタチの悪いやつ。
 
このところは怒りにまかせて何かを叫びたくっても、どう表現してよいのだか分からなくなってしまった。ああ、やっぱりもう若くは無いのだ私は。


何かへの未練を振り切りたくて、少しずつ考え方を変えようとするけれど(大人だからね)、ふとした瞬間に折れそうになる。


私は"強い人間"のはずなのに。

そう、いつからか私は"弱い女"ではいられなくなったみたいで、そのことを思い知らされると年甲斐も無く泣きそうになる。
これからどんどん体力も奪われてゆくけれど私は誰かに守られることが当然の人間ではないのだから、しっかりしなくてはならない。
 


上京したての頃、ひとり知り合いが出来るたびに路線図を眺めてはどれくらいの距離のところに住んでいるのか、どの電車を使えば会えるのだろうかと考えたものだったけれど、路線図を見なくたってスマートフォンがあるから移動には問題無い。「道に迷ったんです」と通行人に話しかけることだって出来る。


渋谷のスクランブル交差点。新宿三丁目。池袋ロマンス通り商店街。六本木交差点。お台場の自由の女神高円寺純情商店街。下北沢本多劇場三軒茶屋栄通り商店街。恵比寿リキッドルーム代官山UNIT。他にも沢山。


そうそう、私は東京タワーが大好きだ。東京タワーがゆがんだ日のことを思うと今でも胸が苦しくなる。


少しの勇気と行動で世界がガラリと変わる、可能性に満ちた世界で何者にもなれずに、けれど落ちぶれきっているわけでもないような中途半端な立場で永遠にだらだらと過ごしていたかったなあ、なんて贅沢なことを思う。何者かになりたかったはずなのに笑ってしまう。


東京は、本当は何者にもなれなくたって許される唯一の街のような気がする。


私はまだ世界のことなんてよく知らないくせに。